時には作品を寝かせてみる
どんなに良いアイデアであっても、それが作品に生かされなくては何にもなりません。
以前、「風」や「空気」を缶詰にする話を書くために、「そよ風のかんづめ」というタイトルを思いつきました。その際、風を缶詰にすることは無理なので、ナイロン袋に入れたものを売ることを考えました。が、ストーリーができないまま終わってしまいました。缶詰にするくらいなら、箱のパッケージの方がコストのかからないことは今となってはわかります。コストがかかっても缶詰めにしなくてはならないこだわりがつかめないまま頓挫してしまったことが悔やまれてなりません。
猫の瞳を題材にしたアイデアもありました。猫の瞳孔は、光によって形が変わります。朝になると縦長に細く、夜にはまん丸くなる性質があります。そこで瞳の中の月が丸くなったり三日月になることで時計の役目になるのではないか……と思ったのです。
けれどこのアイデアも、先の「缶詰」と同じく綿密な構成が不足していたために完成には至りませんでした。
同じネコ科のライオンの話では、「たてがみ」の中で卵を温めたら? という発想で「イライラ ライオン」を書きました。(同人誌『ヒースランド』に発表)
広いサバンナに1匹のライオンがいました。(略)ある日、木の下で眠っていると「おや……?」あたまがむずがゆいことに気がつきました。たてがみの中に何かが入り込んでしまったようです。
この話を要約すると、鳥の巣から落ちてしまった卵はライオンのたてがみの中に置かれることになるのです。
小鳥は当初、卵をしばらく「たてがみ」に置かせてほしいと頼みますが、ライオンは一旦断ります。「わしのたてがみは鳥の巣じゃないぞ」
それでもライオンは根負けして1日だけ卵を預かります。腹を空かせていたライオンはイライラしていたのです。そんなライオンは小鳥から獲物の場所を聞き、空腹を満たします。
やがて 1日が3日そして1週間となりました。雨が降りはじめて、小鳥が戻らなくなりました。すると、あんなに邪魔だった小鳥が気になり始めるのです。
雨が止んで戻ってきた小鳥はライオンのたてがみの中の卵を温めます。ライオンはもう何も言いません。いつか卵から帰ったひながすくすくと成長し、母親と共に飛び立っていきました。 もう少しそばにいても良かったのにとライオンはつぶやくのでした。が、ライオンのこのセリフを生かすためには、彼が老いてもっと孤独になる印象を読者に与える必要があります。
作品を眠らせることで見えてくるものがあります。そのためにも、作品を寝かせておく期間は大切です。
浜尾

制作|随筆春秋事務局

