わたしのバイブル1
「不思議な物語が決して不思議ではなくなる世界。空想の力によってのみ知ることのできる謎の世界。では、ミステリー・ゾーンのお話をご覧ください」
これは、60年代の日本にも一大ムーブメントを巻き起こした、アメリカのドラマ『ミステリー・ゾーン』の冒頭ナレーションです。「過去を求めて」と題する放送回があるのですが、これは、私にとってバイブルにも近い教科書のような存在です。
ニューヨークの広告業界で働くマーティン・スローン(36歳)は多忙な毎日から逃れるように車を飛ばして来ました。そこは実家の近くでした。ガソリンスタンドでエンジンオイルを交換してもらっている間、実家のある町まで歩いて向かいました。その町の昔と変わらない店でアイス3つのソーダを注文しますが、たったの10セントという値段に驚きます。
町はあの頃と変わっていない。何もかもが昔のままだ。メリーゴーランドの音楽と蒸気オルガン。綿菓子やバンドの演奏、そしてアイスクリームが懐かしいのでした。
マーティンが我家に赴くと、彼の父親が顔を出して、「どちら様ですか?」と尋ねました。「父さん、僕だよ。マーティンだ、帰ってきたんだ」しかし、父親は、訝しげな顔をしてドアを閉めてしまうのでした。
今度は、公園で遊ぶひとりの少年を見つけます。それはなんと自分の名前を柱に刻み込んでいる自分自身だったのです。
「マーティン、君はマーティン・スローンだろ」
少年は驚いてその場から逃げ出してしまいました。夜になりかつての我家のそばに落ちている野球のグローブを見つけました。そこにまた父親が現れて、
「まだいたのか、君は何者なんだ?」
「父さん、これは父さんから買ってもらったグローブじゃないか!」
必死に訴えます。あとから顔を出した母親にも身分証明書を見せようとしますが、払いのけられてしまいました。故郷に戻ってきても、両親から拒絶されてしまったのです。打ちひしがれながら彼が向かったのはメリーゴーランドでした。
回転を続ける木馬にまたがる少年に呼びかけます。
「怖がらなくていい。君に話があるんだ」
木馬を飛び降りてメリーゴーランドの中を逃げ回る少年はついに足を踏み外し地上に落ちてしまいました。
「あう! 足が、足が……」
少年が痛みに悶絶すると同時に、マーティンにも苦痛の表情が走ります。木馬が停止し、たくさんの子どもたちが見守る中を、少年は、係員に抱きかかえられながら、運ばれて行きました。
「マーティン、僕はただ、今が君にとって、とても素晴らしい時だと言いたかったんだ。だから、一瞬も無駄にせず今を楽しめ、とそれだけを伝えたかったんだ。ただ、それだけを……」
運ばれていく少年に向かって、マーティンはそうつぶやくのでした。
浜尾

制作|随筆春秋事務局

