
2025年11月5日初版発行
🍂いつも行っている古い銭湯で、80歳を過ぎた番台の婆さんから突然、年齢を訊かれた。52歳だと言うと「あらー、若いのね」と恥ずかしそうな仕草をした。どうした婆さん、と気になった。帰り際、何気なく振り返ると貼り紙が……。そこには「本日、敬老の日。65歳以上無料」と墨書されていた(「年相応がいい」)。どう足掻(あが)いても小便が出ない。膀胱は膨れ上がるばかりだ。石がアソコの根元でラムネ状態になって詰まっているのだと思った(「尿閉」)。髪の毛はあるに越したことはない。なにより若く見える。カッコいい。イカした男には毛がある。ハゲは、格好の/揶揄嘲笑(やゆちょうしょう)の対象だ。だから笑われる前にこちらから笑いを仕掛ける(「ありのままのハゲ」)。以前は、飛行機の中でも新幹線でもたばこが吸えた。かつての「常識」が化学変化でも起こしたかのように「非常識」に変わった。「愛煙家の皆様」から「ニコチン依存症患者の皆様」へと天地がひっくり返った(「気の毒な患者様」)。山の端から一直線に伸びた光が、西側の低い山々を照らし出す。やがて光は斜面の畑に下り、家々の屋根を照らし始めた。青白い街がまばゆい光に包まれていく。牛乳を配り終え、牛乳屋へ戻るため勢いよく自転車をこぎ出した浩一が、振り返りざま叫んだ。「今日、母さん、退院するんだ」(「牛乳瓶の音」)。小さな笑いとほろり涙の31篇です。




