イソップ童話の未来予知
イソップ童話の中でも「オオカミ少年」は最もポピュラーな話です。それが、童話や絵本になると、誤って訳されている場合がほとんどです。
「オオカミが来るぞ―」と呼びかけた羊飼いの少年は「ウソつき」という汚名を着せられたまま、それがいつのまにか浸透してしまっています。中には、話を膨らませるためか、ヒマをもてあました少年が村人をからかうためにそんなウソをついたとされているものまであります。
「ウソをついてはいけません。ウソをつくとオオカミが襲って来てもだれも助けに来てはくれないのですよ」と、私たちも教えられてきました。
ですが、原本には、最後には羊たちと少年がオオカミに襲われ殺されてしまったと書いてあるそうですから、少年はウソをつかなかったことになりますよね!
そもそもオオカミは単独では行動せず、必ず7、8頭の群れをつくって獲物を襲います。だから1度オオカミに狙われたら、羊たちは全滅の運命です。
現代ではどんな秘境でも、こんな恐しい光景を見ることはなかなかないのですが、イソップが生きた2600年ほど前の古代では世界各地でこんな惨事がひんぱんに起こっていたらしいのです。だからこそ少年は危機を予知して村を救おうとしたのではないでしょうか。
「ウソつき少年」というレッテルは大人たちの誤った解釈といわざるを得ません。
「アリとキリギリス」もよく知られた話です。
童話や絵本では、働かずに音楽を奏でるキリギリスが、冬になって飢えと寒さに凍えるのを、アリたちは暖かい巣に招き入れ食べ物を分け与えるという思いやりに満ちた場面で結末を迎えるのが定番です。
これも後世になって編集されたラストです。原本では、飢えと寒さにふるえているキリギリスをアリたちがあざ笑うところで幕引きとなります。
「オオカミ少年」に話を戻します。
イソップが本当に伝えたかったのは、危機を感知した少年がウソつきとののしられても、「オオカミが来るぞ」と何度も訴え続けるその姿勢にこそあったのではないでしょうか。
イソップの時代とは違い現代社会は「1度起こったら取り返しのつかない」たくさんの危機に囲まれています。
温暖化により南極の氷が解け出し海面水位が上昇することもそのひとつで、30年前から指摘されてきました。そんな災害を最小限に食い止めるためには、世間からどんなに軽視されても、危機を訴え続ける人の存在が必要不可欠なのです。
イソップ童話の本質とは、一般的な道徳や教訓よりもっと奥深いところにある真実を含んでいるところです。
それは、未来人類の危機の予知にまで及んでいると評価しても過言ではありません。
浜尾


制作|事務局 正倉 一文