木馬が別れを告げるとき1
立原えりか先生の「木馬がのった白い船」は代表作といっていいファンタジーです。
郵便局の局長さんが宿直の夜、だれかが窓を叩く音に起こされました。それは、色のはげた古ぼけた木馬でした。
「この手紙を速達で、山口イサクさんに届けて下さい」
木馬は、耳のそばにある小さな穴からお金を落としました。
局長さんは、夢ではないかと思いましたが、懐かしい木馬のたのみをききいれることにしたのです。
——山口イサクさま。ぼくはこんど、とおいところへ、いくことになりました。5月21日にでかけます。ぼくはもう、おいぼれたのでかえってこられないでしょう。でかけるまえに、ぼくを、きれいにおけしょうしてください。5月21日、まよなかの12じに、あのこうえんに、えのぐをもって、ぼくを見おくりにきてくれますか。 もくばより
——なつかしい木馬、てがみをありがとう
ぼくが、きみを、おもいだしたのは、何10年ぶりのことだろうか。きみのマホウのことをおぼえているよ、あれは雪のふる、さむいばんのことだったね。ぼくはお金が1円もなくて、おなかがすいて、死んでしまいたいくらいだった。いまでこそ、すこしは名前の知れた絵かきだけれど、あのころは、ぼくの絵をかってくれるひとなんか、ひとりもいなかったものね。きみは、茶いろの大きな目で、じっと、僕の目をみたね、そうして『ぼく、あなたにパンのお金あげよう。なぜって、あなたとぼくは、むかしから、ともだちだものね、ともだちは、たすけあうのがあたりまえだものね』って、いったのだっけ。きみは首をふって、ぼくの手に、10円玉を5まい落としてくれたのだね。『もってっていいよ。お金あつめにくる人が、あつめのこしていったんだ。それで、パンがいくつ買える?』
ぼくはお金をにぎりしめて、ずいぶんながいこと、雪のなかで、きみをみていたけれどきみはもう、なんにもいってくれなかった。木馬——、5月21日にどこへいくの? ぼくはかならず、きみをおくりにいくよ。
日曜日の新聞には「こどもページ」がついていて、木馬からの「ごあいさつ」の文が載り、子どもたちが木馬を見にやってきました。
「きみも、こどものページをよんだの?」
「ああ、このもくば、どこかへいくんだってね」
「どこへいくのだろうね。ぼく、あしたのばんの12じにきてみるつもりだよ」
といって、ミサオは、木馬のながい首をなでます。ところが、「こともページ」を読んだお母さんは「木馬があいさつをするなんてそんなことがあるかしら……」と思います。
「ばかげたきじだ。こどものページは、もっとべんきょうのためになるようでないといけないな」
と、ミサオのお父さんはおもいました。
(童話を要約してまとめました)
浜尾

制作|事務局 正倉 一文

