フレッシュな感性
「ぼくはずっと、そのお兄さんのことがこわくてしかたなかった。頭はライオンみたいな長い金髪で、いつもサングラスをかけている」
鴇崎智子さん(当時18才)が書いた、童話の冒頭です。これは、第29回JOMO童話賞の最優秀賞に輝いた作品で、オリンピックなら金メダルです。
小学生のぼくからみれば、お兄さんの長い金髪はライオンのたて髪のようなイメージで、上手な比喩となっています。近所のおばさんは、そんな彼に対して、毎晩ジャカジャカとうるさくて眠れないとグチをこぼすし、ママは、派手なかっこうをしていて何を考えているのかわからないわ……といいます。ぼくも、ああいうのが不良っていうのかな、と思っていました。
ある日、ともだちとサッカーに夢中になって遅くなったぼくが帰るとき、誰かにぶつかってしまいます。(あ、ライオンだ!)ぼくが全速力で走りだすと、「おい待てよ」と呼びとめられ「これ、おまえのだろ」と、さし出されたのがぼくのサイフでした。
「おまえ、いいサッカー選手になれるぜ、逃げ足が速いんだもんな」
といってそのライオンが笑うと、ぼくも笑いました。
お兄さんと仲よくなったぼくは、ときどきお兄さんのアパートに遊びに行くようになります。お兄さんはバンドでボーカルをやっていると教えてくれました。バイトがいそがしくて、夜しか練習ができないのだとも言いました。
コンサートの日、お兄さんは客席でなく、特別にステージのそでにぼくを入れてくれました。
「いいか、しっかり見とけよ」
ステージへ向かったお兄さんは、その背中がいつもより少し大きく見えました。スポットライトが灯される。いっせいに歓声をあげるお客たち。かがやくライオンがそこにはいました。金色のたてがみをなびかせた、誇り高きライオン。
「どうしていつもサングラスをしてるの?」
「有名になったら素顔じゃ歩けなくなるだろ。だから、今から慣れとくんだよ」
ぼくは、思わず吹きだしてしまいました。だけど、お兄さんは真剣でした。
「おれは、ぜったいプロになる」
「自分の一番好きなことをずっとやっていたい」
次の日の朝だった。ぼくがパパとママにこう宣言したのは。
「ぼく、プロのサッカー選手になる」
あのお兄さんは今、テレビの中でずっと歌いつづけている。
JOMO童話賞は「欽ちゃんの仮装対象」のようでもありました。小学生も応募することができ、そこでは彼らの若いフレッシュな発想、ユーモア、独自性、想像力などが発揮されていました。
「歌うライオン」は、冒頭から引きつけられ一気に読みほしてしまいます。若者と少年の心温まる交流が描かれた力作です。
この作者が今も書き続けていることを願っています。
浜尾

制作|随筆春秋事務局

