🖊️池田元のエッセイ ‐ 佐藤愛子先生ご指導!
【第20回】
今回は佐藤愛子先生のお話です。
1. お宅訪問(佐藤愛子先生のお宅にて)
2. 熟成時間の大切さ(先生のお話要約)
お宅訪問
――今回は審査の裏話です。
第2回佐藤愛子奨励賞の受賞者・白川妙子さんを伴い、先生のご自宅に伺いました。
白川さんと一緒に受賞の御礼を述べ、堀川とんこう先生偲ぶ会への参加報告と、中山庸子先生に今後の指導をお願いしたという件など、短い時間に盛りだくさんの話をしましたが、そのときコンクール応募作品の傾向の話が出て、佐藤先生からのご指導がありました。
ではどうぞ。今回も貴重なお話です。
池田「一昨年(2020年)は981本の応募がありましたが、昨年(2021年)はわずかに198本しか応募がありませんでした。明らかに新型コロナ騒動が関係していると思います」
佐藤「ワクチン、ワクチンで世の中大変な騒ぎだものね。年寄りはね、目先にやることがあると、すべてを忘れて集中するもんだから、みんなエッセイどころじゃなかったのよ」
池田「はい(笑)それで198本の作品の多くが、新型コロナ騒動について書かれたもので、自分が感染した体験あり、家族が亡くなった話あり、ワクチンが打てたとか打てなかったとか、まあ、いろいろなエピソードがありました」
池田「有名人が亡くなったことを悼んだり、患者数が増え続けることに警鐘を鳴らしたりする作品も多かったのですが、審査に入ったときそれらは半年、一年前の話として、すっかり古びてしまっていて、今さらそんなこと言ってもという感じで、全部落選しました」
池田「ここで思い出されるのが、事務局の先輩方から聞いた話です。2011年の夏、佐藤先生は事務局員が推薦する受賞候補作の多くが東日本大震災を扱ったものであることをお叱りになり、受賞作はまったく地震とは関係のないものからお選びになりました」
池田「幸運にも私はそのとき樹海探検の話で佳作に選ばれ、佐藤先生とご縁が深まるきっかけとなりましたが、先生からのご指導内容は以後事務局の審査基準となりました。佐藤先生は候補作に目を通されたあとで『地震のことを書いたものは全部ダメね』と……」
熟慮時間の大切さ
東日本大震災は歴史に残る大事件だ。全国民がその影響を受けたと言ってもいい。
3月11日に起きた大事件を、その年の夏という短い期間に文学作品にできるわけがない。地震の後遺症は続いているだろうし、後遺症の形も、人々の気持ちも変化している最中だろう。
このような大事件に遭遇したあと、あったことを書いただけというのは単なる報道であり、感じたことを書いただけなら単なる感想文に過ぎない。断じて文学ではない。
文学というものはそんな浅いものではない。
新型コロナ騒動も然り。始まったものはいつか収まる、物事には始まりがあれば終わりが来る。終わってから書いて、さらに熟考して推敲し、読者に訴えたいことを鋭く磨いていく。世の中の評価も変わる、新しい事実も明らかになる、さらに自らの気持ちも変化していく、そういったものにすべて向き合って、あらためて筆を取る。それではじめてエッセイと呼べるものになろう。
書くことを決して急ぎ過ぎてはいけない。
2022年6月3日佐藤愛子先生のご自宅にて
制作:正倉 一文
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