第3編 思わずこだわってしまった泡沫話
―――たまたま知った関心事についつい深入りしていました――
04. ひまわりにまつわる絆プロジェクト
04-1. ヒマワリの種 命考える契機
札幌方面厚別警察署の駐車場に花壇ができているのを見つけた。遅植えのヒマワリが十数本、つぼみを付けようとしていた。一般の歩道からもよく見える位置に植えられ、由来説明が添えられていた。
2011年11月、京都府内で4歳の東陽大ちゃんが、車にはねられ亡くなった。陽大ちゃんはヒマワリを幼稚園で大切に育てており、種を握りしめ母親と「来年は一緒に植えようね」と話していた直後の事故だったという。
両親は、その種を男児が生きていた証しとして庭に植えていたが、事故を担当した京都府警の警察官が譲り受けて種を植え増やし、府内全署に広めた。
そして今、陽大ちゃんのヒマワリは、「命の大切さ」を訴え「交通事故防止」の願いを込めた「ひまわりの絆プロジェクト」として、全国的な運動となった。
夏空の下、全国各地で大輪の花を咲かせる「ハルちゃんヒマワリ」に、私は「命」を見詰める機会をもらった気がした。早速、種の譲り受け予約を厚別署の担当者にお願いした。
(2017年8月25日、日刊紙『北海道新聞』「読者の声」欄投稿掲載。一部加筆)
04-2. 天国のハルちゃんへ
天国のハルちゃん、元気かな。天国へ行って、もうすぐ6年になるから、陽大君と呼ばないと失礼かな。もうすぐ80歳になるおじさんがね、ハルちゃんのヒマワリを見つけたんだ。
ハルちゃんが幼稚園で育て、家に持ち帰っていたヒマワリの種をね。次の年、ハルちゃんを想いながら、家でパパとママが大切に育てて大きな花を咲かせたよね。その次の年から、その種を京都府の警察署の人たちが育て、また大きな花をたくさん咲かせたんだよ。その種を全国各地の警察署へ届けたんだってさ。
パパとママがね、種に変身したハルちゃんがあちこちへ行って咲いて、皆に「命の大切さや交通事故防止」を伝えてほしいと願ったんだってさ。この絆プロジェクトを新聞で読んで、「もしかすると」と思って、警察署へ行ってみたんだ。
札幌市厚別区という所なんだけれど、駐車場にハルちゃんヒマワリの花壇があったんだ。すぐ近くに来ていたんだね。感激しちゃったさ。さっそく係のおじさんに種を譲ってほしいとお願いしたんだ。
もらって、聞いたら、まだあげてもいいよと言われたので、散歩コースの何か所もの幼稚園・保育園・小学校にも、花育ての上手なガソリンスタンドにもね、届けてハルちゃんの話を伝えたんだ。みんな快く引き受けて、種を庭に植えてくれたんだよ。
そして、毎日のようにグルーと回って育ち具合を見守っているんだ。遅く植えたからまだ花になっていないけど、太陽に向かって元気に育っているんだよ。京都のパパやママたちにも伝えたいね。
「おじさんの家ではどうだ」ってかい。マンションの15階で庭がないから、バルコニーで鉢植えすることにしたのね。だから、なかなか大きくならないんだ。でもね、地上から計るとダントツのっぽなのさ。天国には近いん所で育っているんだよ。
ヒマワリの花が開いたら、空を見上げて手を振って知らせるよ。ハルちゃんも楽しみにしていてね。
(2017年8月18日、個人仮想作品集『無意根山を望む窓』収録)
飯名碧水 提供
04-3. 輪禍防止の花に思う
2018年7月28日の『室蘭民報』によると、北海道有珠郡壮瞥町にある壮瞥温泉地区2か所で観光協会が栽培の「ひまわり畑」は、洞爺湖と昭和新山に挟まる夏の風物詩として見ごろを迎えている。
記事を読んで思いが及んだ。全国の観光ひまわり畑の多くには、「ハルちゃんひまわり」の区画があり、来観者に趣旨を伝え、周知の一翼を担っている。札幌方面伊達警察署管轄区域の壮瞥の「ひまわり畑」にもきっとあるだろう、と。
「ハルちゃんひまわり」の愛称で知られる「ひまわりの絆プロジェクト」は京都府警から始まった。警察庁が「命の大切さと交通事故防止を呼びかける運動」として採用した。普及推進を本格化した2016年からは北海道を含め全国で展開し、代々受け継がれた種が各地で大輪の花を咲かせている。
胆振地区では前年からで、本紙上で何度も紹介されているように、伊達警察署の創意実践が注目されている。その中でも、北海道壮瞥高校の農業クラブが種20粒の栽培から8千粒の種実を収穫し、同署に寄贈したという活動は、全国の絆実践でも類例を見ない。
2018年は、伊達警察署が署内花壇で採取した2千粒と合わせて、1万粒に及ぶ種が用意された。酷暑の中、胆振の多種多様な場所で交通事故絶無の願い花を咲かせ、一服の清涼剤になっているに違いない。
(2018年8月1日、日刊紙『室蘭民報』「むろみんトーク」欄投稿掲載。一部加筆)
04-4. 事故防止願う ひまわりの絆
『沖縄タイムス』に「死亡事故根絶 花に願い/ヒマワリの種植える」が載って約2か月が経過した。
ヒマワリの種は発芽し、早いものは花を咲かせているかと思う。教育に生かす沖縄県警、宮古島警察署の着想に感心して、順調に進むよう念じていた。
京都府警から始まった「ひまわりの絆プロジェクト」は、警察庁が「命の大切さと交通事故防止を呼びかける運動」として採用した。沖縄県警でも、沖縄県民に「交通安全・被害者支援の心」の輪を広めようと早速導入したと聞く。
寄贈された種を沖縄県警が栽培し増やし、宮古島署は沖縄県立宮古総合実業高校に約600粒を贈った。同高校生物生産科の生徒はやりがいのある育種に専門を駆使し、純種を保持する活動をしっかりと後輩にも引き継いでいくだろう。1年間で実る種は大量を確保できる。
大輪を咲かせる「ハルちゃんひまわり」直系の種は来年以降、いよいよ宮古島内の教育関係をはじめ、希望者に配布され、交通事故根絶の絆をつなぐ実践に着手する。
遠く北海道からも、素晴らしい実践を応援したい。
(2018年8月2日、日刊紙『沖縄タイムス』「わたしの主張、あなたの意見」欄投稿掲載。一部加筆)
04-5. 「北竜町ひまわりの里」で咲く花
2018年10月、北海道雨竜郡にある私の出身校・北竜町立北竜中学校の同期会が「サンフラワーパーク北竜温泉」で開かれた。80歳を超えても永遠の15歳仲間が、思い出話に花を咲かせ、和気あいあいのひとときを過ごした。
50年も前から1年置きに開催してきて、参加者がいる限り、今後も続けようと確かめ合った。
二次会の酔いの勢いで、私はつい口をすべらせてしまった。
「北竜町ひまわりの里」は、「日本一の人気を誇り、世界のひまわりも育てているのだから、いわれのある日本の2種類も、もちろん育てているよね……」
「それってどんなこと?」
町会議員も務めていた仲間2人が身を乗り出してきた。
求めに応えて、その名といわれをかいつまんで伝えた。
1つは、はるとちゃんの「ひまわりの絆プロジェクト」という。命の大切さと交通事故防止の願いを込め、大輪を咲かせる全国運動となっている。交通事故死した幼稚園児に由来し、京都発祥8年目の交通安全の象徴である。
もう1つは、かなり知られている「はるかのひまわり絆プロジェクト」のこと。1995年1月の阪神・淡路大震災で亡くなった少女に由来し、「人の尊厳、人との関わりの大切さ、心の豊かさ」を地域社会に育てる全国展開のひまわり育成運動となっている。海外にも広がっている災害復興の象徴である。
「プロジェクトの正式な名称を書いて」とも言われ、メモを渡した。
くしくも、2019年の歌会始で「はるかのひまわり」が詠われた。
「贈られしひまはりの種は生え揃ひ葉を広げゆく初夏の光に」(平成31年歌会始、天皇陛下御製御歌)
「北竜町ひまわりの里」が世界の人々に愛され、平和への熱気を太陽から受け世界へ発信し続けるよう、もしまだだったら、意義深いヒマワリの種もぜひ植えてほしい。
太陽に向かって咲く花に「平成」の精神が永遠に続くよう願いを託したい。
太陽の象徴・ひまわりよ、天を仰いで輝け!
(2019年1月19日、個人仮想作品集『無意根山を望む窓』収録)
追記
「北竜町ひまわりの里」での「ひまわりの絆プロジェクト」は、2019(令和元)年7月下旬~8月下旬開催の「第33回北竜町ひまわりまつり」の期間、この地管轄の旭川方面深川警察署が旭川中央警察署と共に「世界のひまわり」コーナー内の1画を借りて実施した。しかし、その後は新型コロナの影響でイベント自体の中止が続き、実施できていない。
また、「はるかのひまわり絆プロジェクト」の方は、2022年の夏までにまだ実現していない。
2つの「ひまわりの絆プロジェクト」がコラボレーションで開かれたとのニュースが待ち遠しい。
(2023年1月)