夕方の霧島山
ミヤマキリシマ 花だより (その1)
「ねえ、お母さんはどう思う?」(by あひる)
幸奈は私によくこう聞いてくる。しかし、素直に親の意見が聞きたいなどという顔はしていない。ほほをふくらませ、目を怒らせて、不満まる出しの表情だ。私は、
「じゃあ、あなたはどう思うの。その通りでございますって言ってあげるから、自分の意見をはっきり言いなさいよ」
と逆に聞き返した。
幸奈はハアァーッと長いため息をつき、
「じゃー言うけど……」
と、にんまり笑って、とうとうと自説を語り始める。
彼女のいつものテクニックである。しまった、その通りでございますと言ってあげるだなんて、最初から不利な約束をするんじゃなかった、そう思ったときはあとの祭りだ。
娘は用意周到、私は短気でおっちょこちょい。
誕生日は同じ七月七日なのに、性格は正反対だ。
空中に飛んでからものごとを考える私と、石橋のだいぶん手前からコツコツと地面を叩いて渡る幸奈。
むかしは「この子は石橋を叩いても渡らないのでは」と思っていたが、じつは石橋を叩く時間が、ほかの人よりうんと長いだけなのだと、幸奈が保育士になってから気がついた。保育士になるためにはピアノの試験がある。
試験に出される何曲かは、昔から決まったものが出る。
幸奈は幼稚園からピアノを習ってはいたものの、その進み具合はいたってマイペースのスローペースであった。こんな調子で保育士のピアノ試験に合格できるのか、私はひそかに心配していたが、本番では見事に合格を勝ち取った。私が大喜びをしているのに、幸奈はいたってクールな顔で、
「備えあれば憂いなしってね。中学に入ってから今までずっと、保育士試験に出る曲だけを集中的に練習してきたんだよ。合格するのが当たり前だよ」
と言う。ピアノを習い始めて十七年が経っていた。
「親子リレーエッセイ、スタート」(by ゆきな)
親子リレーエッセイに挑戦してみよう。そう言いだしたのは私のほうである。
「うん、いいね。やろう、やろう」
大乗り気だった母はその日の夜に、
「もう書けたよ。お次はあなたの番だ」
とバトンを渡してきた。ウキウキして言う母の顔を見ていると、ハアァーッと長いため息が出た。
エッセイ歴二十年の母と違って、私はものを書くということが苦手で、やっと今年から随筆春秋の会員になって文章修行に挑戦をはじめたばかりなのである。
事務局の方々からも激励を受け、筆力を高めるためには多くの人からフィードバックをもらったほうが良い、書いたらホームページにアップしてあげるよ、と言われて親子リレーエッセイを提案しただけなのだ。
まだひと文字も書けてはいない。
書かなきゃと思っているうちに、あっという間に一週間が過ぎてしまった。
私はそもそも何事も準備万端、慎重な上にも慎重に行動したいタイプなのだ。人に急かされて行動するのは性に合わない。それに今は、絵を描きたい気分なのだ。
人からせっつかれると、かえって私の中の反抗心が目覚める。周りからはマイペースでおっとりしていて、性格も優しくて従順だと思われているが、じつはとてつもなく頑固で「自分がそれでいい!」と思うまでは絶対に行動に移さない。母の思惑通りにはならない娘の私ではあるが、とにかく親子リレーエッセイをスタートしようと思う。
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